2013年、ジル目黒がオープンした時、平くんというキッチンスタッフがいました。飲食で働いた経験は少なかったですが、成長意欲やお客様に向き合おうとする姿勢がすばらしく、当時から大切にしていた採用時の考え方である「スキルよりウィル」を重視し、採用したスタッフでした。当時のキッチンには、熊谷や山本というプロフェッショナルがいて、ホールには僕や菅原、奈美がいました。オープンからいきなり繁盛していたジル目黒において、経験の浅い平くんは、さすがに仕事を覚えるので精一杯という様子で、キッチンの仕事、時にホールの仕事に毎日追われている状況でした。

僕は、せっかくこの環境で働いているのだから、圧倒的に成長してほしいと思い、高い基準を求め続けました。要は、いつも叱っていました。どこかかわいげのある人物で、叱られても何度でも挑戦してくる姿に、僕自身が甘えていたのだと思います。

平くんは、ある日突然お店に来なくなりました。
音信不通になり、家を訪ねても不在でした。
数年後に、他のお店で働いていることを知りました。

創業メンバーとして、あの時のジル目黒を支えてくれていた平くんに「ありがとう」と「ごめんな」を言えなかったことを、僕は今でも後悔しています。

ジリオンが大切にしていることの一つに「傾聴と承認」があります。傾聴とは「聞く」ではなく「聴く」こと。相手が話すことだけを「聞く」のではなく、相手が話しやすい状況をつくって「聴く」ことです。承認とは単に「褒める」ことではなく、過程を「観察」し、存在を「認め」、気持ちを「伝達」することです。当時の自分は、それができていませんでした。

「言いたいことがあったら言えよ」
「なんで言わないんだよ」
という姿勢で、平くんに接していました。
そして何よりも、「傾聴と承認」ができるもっと手前で、僕は平くんから見れば「無関心」に見えていたのだと思います。

言い訳のように聞こえるかもしれませんが、心の中では平くんの成長を願っていたし、あの頃のジル目黒で毎日働いてくれることに感謝をしていました。けれど、それを伝える態度も言葉も、表現していませんでした。平くんから見れば、何も表現しない僕は「無関心」で、平くんはお店の中で孤独感や疎外感を感じていたのだと思います。

マザー・テレサは「愛の反対は憎しみではなく無関心だ」という言葉を残しています。真理をついた言葉だと思います。感動を届ける仕事をしている僕らは、決してお客様に対して無関心ではありません。いつもお客様の心の動きに、目配り気配りをし、期待を超えるサービスを提供することを心がけています。その気持ちを、もっと仲間にも向けてほしいと思います。一緒に働く仲間を大切に思う気持ちをきちんと態度と言葉で表現し、「伝える」ではなく「伝わる」ことに責任を持つことが大切です。

そしてメンバーにも、上司が必死に向き合おうとしている気持ちに、応える責任があります。人と人が大勢働く現場においては、時に無関心を感じることや、孤独を感じることもあると思います。そんな時に、卑屈になったり、心を閉ざしたりすることなく、勇気を出して向き合ってほしいと思います。差し伸べられた手をはじくのではなく、その手を握り返し、問題解決のために一歩を踏み出すことが大切です。

古くから、職人の世界における上司と部下の関係は、師匠と弟子という厳格な関係で、弟子に「言いたいこと」があること自体が許されない世界でした。「無関心」が当たり前で、「傾聴と承認」など存在しない世界です。けれど、それではお店のメンバー皆がお客様の満足・感動に向き合うことはできません。お互いを信じ、リスペクトし、力を合わせるからこそ、最高のサービスが実現できるのです。古き文化が残る飲食業界において、「傾聴と承認」という新しい文化を創ること。それは僕にとっての大きな自戒でもあり、ジリオンが他の飲食店とはレベルの違う組織を創れるチャンスでもあるのです。

ジリオンではTalknoteをという社内ソーシャル・ネットワークサービスを導入しています。それは、組織から「無関心」を追放し「傾聴と承認」の文化を創るためです。Talknoteはいつでも誰でも発信ができて、リアクションができるコミュニケーションツールです。社員だけでなくアルバイトの人まで既読・コメントをする店もあります。様々な手段を活用して、僕らはそれぞれの現場でいいチームを創っていきましょう。

上司と部下。
キッチンとホール。
現場と本部。
飲食業界が当たり前のように陥る、人と人、組織の断絶。
ジリオンは、一人ひとりがお客様と仲間に関心を持ち、相手の気持ちに応える責任を持ち、傾聴と承認を実践することで、誰一人として輪から外れる人がいない世界をつくっていきましょう。  
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